PSY事件簿
―― 現代の呪い ――

毎日新聞より(1999年5月14日〜5月21日までの記事の抜粋)
 1999年の5月14日午前0時50分ごろ、札幌市のグリーンホテル札幌の305号室から出火。三階、四階に宿泊していた修学旅行中の神戸★★高校の生徒29人が病院に運ばれたが、出火した部屋にいた女生徒の一人が一酸化炭素中毒で死亡。もう一人の女生徒も重体。
 札幌南署が出火元を現場検証したところ、室内にマッチ棒が散乱し、近くのソファーが激しく燃えていた。出火後、室内から助けを求めた様子はなく、ソファーがドアを塞ぐような形で置かれていたことから、室内で放火したものと推定される。だが21日になって、重体の女子高生が一酸化炭素中毒で死亡したため、真相は永遠にわからなくなった。


―― 分析1 ――
四角い櫓  5月14日に事件をテレビで見たときは、修学旅行の解放感でついタバコを吸ってしまい、その火が燃え移ったのではないかと思っていた。しかしマッチ棒が散乱していたという点にひっかかるものを感じて、事件の報道には注意していた。
 すると5月21日のラジオで、二人の少女はだれかを呪うために、マッチ棒で"四角い櫓"を作り、それに火をつけて燃やす儀式を行っていた。その火が燃え移ったらしい…という報道が流れた。
 儀式については、テレビも新聞も報道しなかったので、はたしてどこまでが本当なのかわからない。だがラジオの解説のとおりであるとすると、不気味なものを感じる。


―― 分析2 ――
 人を呪うことの愚かさは、いうまでもない。だがかつての日本では、このような事件は頻繁に起こっていた。古代社会ではもちろんのこと、現在でも恋敵に呪いをしかけて、民事訴訟にいたることもある。ぼくが怖いと思ったのは、四角い櫓を燃やしたという点だ。
 いままでの日本では呪いをかけるときは護摩壇を作り、人形を相手の身代わりとして、大威徳明王の真言を唱えたものだ。信じない人にはバカバカしいだろうが、そこには千年の間、密教者が研鑚を重ねた様式があった。
 だが今回の呪術は、そうした密教系のものではないような気がする。護摩壇で火をたくのと、櫓を燃やすというのは似て異なる。説明すると非常に長くなるので省略するが、この場合の"四角い櫓"を燃やすのは、黒魔術の六芒星に火をつけて願望成就を願う手法を略したのではないかと思われる。六芒星
 20世紀のはじめ、黒魔術はドロップアウトしたインテリの趣味であった。1960年代のフラワームーブメントの潮流に乗ってアメリカから世界に広がり、1980年代になるとアメリカやオーストラリアで黒魔術を実践したことのある人間が来日するようになった。
 ぼくは10年ほど前、シドニーから来た男に黒魔術について教わったことがある。黒魔術などというと、どんな妖しい男かと思われがちだが、彼はとてもハンサムなスポーツマンで、十代の少女たちに絶大な人気があった。現代の東京では、偶然にそういう人に会う可能性がある。
 国際的な都市として開けた神戸は、知的レベルの高いさまざまな外国人が集まる場所だった。魅惑的な生活習慣や文化とともに、他の都市ではおめにかかれない神秘的な思想も輸入されたと聞いている。なにかのきっかけで、彼女たちが黒魔術の悪しき技法を知ってしまったとしたら、悲しいことだ。

★問題の儀式が、はたして西洋の黒魔術であったかどうかは、いまとなってはわからない。分析はあくまでも、西谷の推測をもとにするものであることをご了解いただきたい。